2026.03.2118:00
【櫻井保幸】ある夜のこと。
最近、現場が少しだけ落ち着いてきました。
といっても、相変わらず制作の仕事はバタバタしていて、
朝から晩まで走り回ってる日がほとんどなんですけど。
それでも、少しだけ余裕ができた気がしていて。
だから今日は、ちゃんと書こうかなって思っています。
——なんて書きながら。
正直に言うと、
今日はどうしても、書いておきたいことがある。
あの日も、いつもと同じ朝でした。
寝不足のまま家を出て、コンビニでコーヒーを買って、現場に向かうだけの、ただの一日。
違ったのは、その帰り道くらいだったと思います。
その日は、撮影が少し押して。
終電ギリギリで駅に着いて、なんとか電車には間に合ったけど、座る気力もなくて、ドアの横にもたれていました。
スマホを見ても、特に誰からの連絡もなくて。
「今日も何もなかったな」
って、思ってた。
最寄り駅に着いて、改札を出て、いつもの帰り道を歩いていて。
その途中で、見慣れないものが目に入ったんです。
駅前のベンチに、誰かが座ってる。
こんな時間に珍しいなって思って、なんとなく目がいって。
そしたら、その人
泣いてました。
最初は、見ないふりをしようと思いました。
関わる理由もないし、正直、疲れてたし。
でも、足が止まった。
理由は、よくわからないです。
ただ、
「このまま帰ったら後悔する気がする」
って思った。
それだけでした。
少しだけ迷って、
少しだけ深呼吸して。
僕は、その人の前に立っていました。
「……大丈夫ですか。」
今思えば、もっと気の利いた言葉があったと思う。
でも、そのときはそれしか出てこなくて。
彼女は、少しだけ驚いた顔をして、すぐに目を逸らしました。
「……大丈夫じゃないです。」
そう言って、少しだけ笑った気がした。
泣いてるのに、笑ってるみたいな顔。
その瞬間、なんとなく分かってしまったんです。
あ、この人、多分、無理してる人だ。
「座っていいですか」
そう言うと、彼女は小さくうなずきました。
それから、しばらく。
お互い、ほとんど何も話さなくて。
ただ、同じベンチに座って、同じ夜を見ていました。
風が、少し冷たかった。
彼女は、手をぎゅっと握っていて。
僕は、何もできないまま、ただ隣にいるだけでした。
「……あの」
しばらくして、彼女が口を開いた。
「なんで、声かけたんですか」
その質問に、僕はすぐには答えられなくて。
少し考えてから、正直に言いました。
「なんか……帰れなくなりそうだったので」
彼女は、一瞬だけきょとんとして。
それから、少し笑いました。
さっきよりも、ちゃんとした笑顔で。
「変な人ですね」
「よく言われます」
そう返したら、彼女はまた少しだけ笑った。
そのとき、やっと、ちゃんとした空気になった気がしました。
それから彼女は、少しだけ自分の話をしてくれました。
仕事のこととか、
うまくいってないこととか、
どうでもいいようなこととか。
全部、断片的で、ちゃんとした話じゃなかったけど。
それでも、なんとなく伝わってきて。
ああ、この人。
ずっと、ひとりで抱えてきたんだなって。
気づいたら、もう深夜2時を回っていました。
「あっ」
って言ったら、
彼女が小さく笑って。
「ごめんなさい」
「いや、全然」
本当に、全然嫌じゃなかった。
むしろ、この時間が終わるのが、少しだけ嫌だった。
「じゃあ、そろそろ帰ります」
彼女はそう言って、立ち上がりました。
「送ります」
って言いかけて、やめた。
たぶん、それは違う気がしたから。
「気をつけてください」
それだけ言うと、彼女は少しだけ振り返って
「ありがとうございました」
そう言って、夜の中に消えていきました。
名前も、連絡先も、何も知らないまま——
あれが、ただの偶然だったのか。
それとも、何かの始まりだったのか。
まあ多分、この時点では、ただの何気ない“ある夜のこと“だったんだと思います。
でも、もし、あのとき、声をかけてなかったら。
今の自分は、少しだけ違っていた気がします。
何かが、ほんの少しだけ。

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明日は、テキトーそうに見えてめちゃ真面目なみんなの憧れの叔父さん、ダンディーりゅーまさんです。
次回もサービスサービス!

SEKAI
2026.03.21
櫻井さんの優しい一面が見れた気がします。
ただ…何も言わずにそばにいる。
それだけで救われる日もある。
凄く優しいお話ありがとうございます。