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2026.04.2018:00

【櫻井保幸】監督と呼ばれた夜

月に一度くらい、自分の番が回ってきます。
ここは、毎日のように移り変わり誰かの記事が更新されているので、
僕の記事だけを追っている人は、多分そんなに多くないと思います。

それでも、
前回の記事のあと、思っていたよりいろんな反応をもらって、
正直、少し嬉しかったです。

「あれって本当の話ですか」とか、
「続きが気になります」とか。

読んでくれた方、ありがとうございます。
こうやって反応をもらうと、ちゃんと書いてよかったなと思えます。

まあでも、
本当かどうかは読む人に任せればいいのかなと思っています。



今日は、最近あった嬉しいことを書こうと思います。

少し前、俳優仲間から久しぶりに連絡が来ました。
彼とは何年か前の自主制作映画で共演しました。
予算もない。スタッフも少ない。
でも、ちゃんと熱だけはある現場で。

撮影の合間に彼と台詞を合わせたり、
終わったあとに安い居酒屋で映画の話をしたり
「劇場公開できるといいな」なんて語ってたりしました。

そんな彼から、
『奥さんの知り合いで起業した人がいる。
まだベンチャーだけど、WebCMを作りたいらしい。
予算もそんなに多くないけど、ちゃんと作りたい。』
と。

それから少し間を置いて、

『櫻井さんが監督もやってるのをSNSで見て知ってた。
先方さんとプロデューサーさんにも作品見てもらってすごく良かったって言ってて。
よかったら、監督をやってくれないか?』

僕はしばらく返信できなかった。
ちゃんと嬉しかったんだと思います。

大きな映画でも、連続ドラマでもない。小さな企業のWebCM。

でも、話を聞けば、
映画みたいに余白があって、最後に少しだけ心が動く、人を感動させられるようなものにしたい、
というような企画内容でした。

ありがたい話だった。
正直、自分で大丈夫なのかという不安もありましたが。

でも、声をかけてくれた彼にも、
作品を見てくれた先方さんにも、プロデューサーさんにも、
ちゃんと「頼んでよかった」と思ってもらいたかった。
だから、引き受けることにしました。

撮影は、うまくいったと言い切れるわけではなかった。

想定していた光が入らなかったり、
時間が少し押してしまったり。
でも、不思議と嫌ではなかった。

好きな人と好きなことをやれている時、やっぱりそれが一番幸せなんだと思います。

ラストを撮り終えた後、彼が相手役の役者と一緒に僕のところにきて
「今日は1日、最高な日になった」と言って泣いてた。

その涙を見た瞬間、
「あ、そっか。こういうことなんだよな」と。

もちろん反省点も山ほどあります。
でも、彼の、その顔を見ただけで、その言葉を聞いただけで、僕は少しだけでも報われた気がした。

撮影が終わったあと、
声をかけてくれた俳優仲間と、プロデューサーさんと、三人で飲みに行きました。

西荻窪の小さな居酒屋。
彼の行きつけらしい。

乾杯して、少し落ち着いた頃、
プロデューサーさんが言いました。

「今日の現場、すごく良かったです」

僕は、曖昧に笑うことしかできませんでした。
褒められるのが、あまり得意ではないから。

プロデューサーさんは、続けて言いました。

「役者をちゃんと見てる現場でした。
色々な現場見てきてますが、今日は、みんなちゃんと息をしていた気がします」

少し、胸に残りました。
多分、自分が大事にしたかったものを見つけてもらえた気がしたから。

「櫻井さんは、いい監督だと思います」

そう言われて、どう返せばいいかわからずに、また笑っていました。

すると隣から
「でも、もっと俳優もやってくださいよ」
と彼が言ってくる。

「いや、やってるよ」
そう返すと、彼は首を振る。

「そうじゃなくて。もっとちゃんと。
人の芝居をあれだけ見れる人が、自分は出ないって、なんかもったいないですよ」

プロデューサーさんも笑いながら
「わかります。スタッフばっかりやってて楽しいですか?」と。

「いや、楽しいです」

これは本音だ。
助監督も制作も、やってて楽しい。
もちろん辛いこともたくさんあるけど、最後には楽しいが必ず残っている。
自分には合っているのかもしれないと思う瞬間もある。

でも
「楽しいです」と答えてから、
その先の言葉が出てきませんでした。

プロデューサーさんが、 少しだけ優しい声で言う。

「もちろん監督も合ってると思います。
でも、俳優も是非やってほしいですね」

彼も頷きながら
「櫻井さんが出てるところ、もっと見たいです」

さすがに嬉しかったです。
でも、それと同じくらい苦しかった。

僕は結局、
「まあ」 としか言えませんでした。

こういう話になると、いつも言葉を濁してしまう。



終電はとっくになくなっていました。

彼とプロデューサーさんとは駅前で別れて、
僕はタクシーに乗りました。

ほろ酔い気分で、窓の外を流れる街を見ながら、
さっき言われた言葉を思い返していた。

嬉しいような、悔しいような。
きっと背中を押されていたはずなのに、どこかを突き刺されたかのような。
そんな感覚。

こういう夜は、まっすぐ帰れないことがあります。

そのまま家に帰ってしまうと、
全部がただの疲労に変わってしまう気がして。

だから、近所のバーに寄りました。
たまに行く店。

大きな看板があるわけでもなく、
小汚いビルの2階にある、小さなバー。
カウンターが8席くらいあって、ボックス席が2つほど。
マスターがひとりで切り盛りしていて、平日はお客さんもまばらな店です。
ひとりで飲むにはちょうどいい。

嬉しいことがあった日。
悔しいことがあった日。
誰かには話したいけど、誰にもちゃんとは話せない日。
そういう日に、僕はこの店に行きます。
マスターは、あまり余計なことを言いません。
でも、
聞いていないようで、ちゃんと聞いてくれていたりする。
過去に話した話も、ちゃんと覚えていてくれる。
プロです。

階段を上がり、少し重いドアを開けると、
いつものように小さな音でジャズが流れていました。

カウンターの奥で、マスターが顔を上げる。

「お疲れさまです」

その一言で、少し肩の力が抜けました。

「今日は、なんか良い顔してますね」

そう言われて、思わず笑ってしまいました。

「そう見えます?」
「少なくとも、悪い飲み方をしに来た顔ではないですね」

僕はカウンターに座って、いつものウイスキーを頼む。

グラスが置かれ、一口飲んで。
ようやく今日が終わったような気がした。

「今日、初めてちゃんと監督しました」

そう言うと、
マスターは少しだけ目を細め

「それは、おめでとうございます」

その言葉が、思ったより胸に来ました。

まだ何者でもない。
まだ結果も出ていない。
まだ監督と呼ばれるような人間ではない。
それでも、その夜だけは少しだけ、
そう呼ばれてもいいような気がしました。

僕はマスターに、今日のことを少しだけ話す。

俳優仲間が声をかけてくれたこと。
小さなWebCMだったこと。
全部うまくできたわけじゃないけど、幸せだったこと。
それから、
飲みの席で「もっと俳優をやれ」と言われたこと。

マスターは、いつものように黙って聞いていて、
最後にボソッと呟く。

「ちゃんと見てくれている人がいるのは、幸せですね」

僕は、自分の話をするのがあまり得意ではありません。
でも、
たまに誰かが、自分でもうまく言えない部分を拾ってくれることがあります。
そんなとき、少しだけ救われたような気がします。

二杯目を頼もうとしたとき。
店の奥、カウンターの一番端に座っている女性と目が合いました。

店に入ったときには、全然目に入っていなかった女性。

色白で、古風な顔。
肩にかかるか、かからないかの長さの髪。

あの時の女性でした。
駅前のベンチで、あの夜を一緒に過ごした、あの時の女性。

「えっ」

僕は一瞬とまどい、彼女の顔をじっと眺めてしまった。
時間が、少しだけ止まったみたいに。



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明日は、板垣一輝。いたがきひかる。いたる。
22歳。多分。優しい男。多分。

次回も、サービスサービス!


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櫻井保幸個人Instagram📷
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